鳥取県文化振興財団情報誌【アルテ】

10
2013October

鳥取県芸術家百華Vol.53 さじ民話会 前会長 中島嘉吉さん

「さじ谷ばなし」を本に
  まとめられたとお聞きしましたが。

さじ谷ばなしは、おとぎ話やなぞなぞのように口承で伝えられる昔ばなしの一つで、佐治の村を舞台に、人のしくじりや物忘れ、早合点などを描いた短く明るい作り話です。山間地域の不便さと重ねた笑いのため、かつては実話と混同されて佐治へのマイナスイメージを持たれていたこともあり、戦後しばらく影をひそめていました。

ところが昭和38年頃、全国的な民話ブームによって再び掘り起こされ、当時の佐治村長の“「さじ谷ばなし」の存在を堂々と表に出して理解してもらうべき”という方針のもと、私はさじ谷ばなしがどれだけ現存しているのか調査を始めました。お年寄りを集めたり、家々を回ったりして語ってもらい、何年もかけて昭和48年にさじ谷ばなし78話を一冊にまとめました。

今は“佐治の伝統”の一つ
 という印象がありますね。

現在は、さじ谷ばなしのイメージもだいぶ変わってきたと感じています。「本にしていなかったら、今頃さじ谷ばなしは無くなってしまっていただろう」、「さじ谷ばなしは佐治の宝だ」と言われる方もあります。佐治では小学5年生が自分の好きな話を覚え発表する学習を続けていますし、旧鳥取市内の小学校も、民泊とさじ谷ばなしの体験によく佐治まで来てくれ、以前と比べるとだいぶん明るい印象になってきたように感じられます。

平成10年には「さじ民話を語る会」を発足しました。現在は「さじ民話会」と改称し、年に90回程、地元の「民話の館」や町外に出て語りをしています。私が会長を退いた後も、「孫に語るように」というのを大切に会員が引き継いでくれています。

さじ谷ばなしに対する想いを
 お聞かせください。

私がこのように「さじ谷ばなし」に関わってきたのは、私のお爺さんの影響がとても大きかったと思っています。物心がついた頃から、お爺さんは囲炉裏のそばや寝床でこの笑い話を語ってくれていました。しかもそれを笑い話にとどめず、「知らないことはよく人に尋ねること」「欲をするな」「人をばかにするな」など、物語を糧に躾してくれたと思います。私にはその想いが強いです。

さじ谷ばなしには、舌切り雀やさるかに合戦と同じように教訓があります。誰の身にも起こり得る笑い話ではありますが、笑いっぱなしでなく、「なるほどなぁ」と思って聞いてほしい。さじ谷ばなしにはそんな文化的、教育的価値があります。みなさんがこの物語を正しく理解し親しんでくださるよう、また、佐治の人々がこの温かみある物語を誇りに明るく暮らしていけるよう、願っています。

民話の館の囲炉裏を囲み、さじ谷ばなしを語る中島さん

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