私はもともと版画が専門です。とりぎん文化会館が開館した1993年、一番にここで版画の個展を開きたいと思い、その年の11月14~17日に展示室で版画作品の個展を行いました。入口の看板もすべて手作りしたのですが、展示室の真ん中がぽっかり空いてしまうことが計画段階で分かりました。そんなとき、ある友人が鉄を曲げて椅子を作っていたのを見て、“こんなこともできるか?”と、あるジャズの風景を描いた原画を渡し、鉄筋で作ってもらったんです。それこそが第1号の鉄筋彫刻。それがきっかけで、自分でも道具をそろえてやり始めました。
鉄筋彫刻は「オリジナリティがなければアートの意味がない」という思いで作ってきた作品です。粘土の塊である彫刻に対して、鉄筋彫刻の特徴は線だけでできていて透けていること、また、線が省略されている点も大きな要素です。これは日本人独特の感覚「間」に通じ、海外の方に最も評価されている点です。
小さいころから美術が好きだったかといえばそうでもありません。さかのぼれば小学5年生の時、友だちと切手集めをしていました。当時の切手は5円。小学校のすぐ近くの郵便局や駅前の百貨店に行き、記念切手が発行されるとお小遣いで購入するのが楽しみでした。中でも、「浮世絵」(特に葛飾北斎や安藤広重の風景版画が切手になっているもの)が一番価値があるとされていました。同時に、自分自身も「きれいだなあ。」と惹かれていました。思えばそれが僕のアートとの初めての出会いだと思います。
会館の20周年である今年は、私にとっても鉄筋彫刻20周年です。今年11月15日(金)~19日(火)には、“ギャラリーそら”にて20周年記念展覧会を、11月18日(月)には、“とりぎん文化会館小ホール”で記念コンサートを計画しています。記念コンサートには、ゴールデンシニアトリオ(大阪)、棚橋恭子(ヴァイオリン・鳥取市出身)、ゲバラバンド(鳥取市)など、この20年間で出会ったアーティストに出演を依頼しました。私の作品も展示しようと思っています。
この20数年、あのまま東京で創作活動を続けていたら…と思うこともありました。鳥取は作品を作っても発信するには難しいですから。でもそんな中でいろいろな方々に助けられながらアート活動できていることが有難く、また、鳥取に帰ってきたからこそオリジナルなものが作ってこられたと、20年を振り返って今思っています。