また会いたい噺家 桂 雀々 私たちの人生に笑顔とパワーをくれる落語。そんな落語がずっと愛され続けている理由と、より楽しむためのヒントを落語家桂雀々さんにうかがいました。

落語への道

 本にも書いてあるんですけど(※1)、昔からバカなことやアホなことが大好きでね。ただ、昔はズッコケたり、モノマネしたり、行きあたりばったりの笑いで、みんなを笑わせてるけど、笑われているんやないか、と不安に思ってました。
それが、ある日、ラジオから流れてくる桂(かつら)きん枝(し)さんの『狸(たぬき)の賽(さいころ)』を聞いて「これや!」と思ったのが、落語との出会いです。
 自分なりに覚えて、それをしゃべるというのは初めての経験で、それをクラスで発表する機会があって、その時に、みんながビックリしてくれたんです。14歳の頃も今も、みんなをビックリさせるんが僕は大好きなんですよ。
※1)「必死のパッチ」 2008年発行 幻冬舎

人が好き

 先日、京都に行ったときに、お父さん、お母さんに連れられてきた5歳の幼稚園児が、僕のDVDを持ってサインを求めてきたんですよ。「どれが好きなん?」て聞いたら、その子が突然ネタをしゃべりだしたんです。家でもずう〜っとDVDを観てるらしく、枕(※2)の部分もマネしてしゃべってるんです。これには僕がビックリした。「落語というのは5歳の子が音的にも入っていきやすいんやな」と思いましたね。
 噺家は、みんなそれぞれが切磋琢磨しながら作品を覚えてやってるんですけど、自分が弟子入りした頃は、何が何だかわからなくて必死でした。25年を過ぎた頃から、ようやくわかってきたこともあるんです。僕は登場人物のキャラクターを考えるのが好きなんですが、稽古をしてる時いうのは、落語の視野は狭いんです。日常生活でそのエキスをもらうのはやっぱり人です。だからこそ、畑違いの人に会うことが非常に勉強になりますな。落語の登場人物は、特別な人物やなく、一般大衆やから。最終的に人を好きじゃないとダメやと思います。
※2)枕…落語の本題に入る前の導入部分

地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)という作品

 今から7年前、噺家生活25周年の時に、記念にやった大作です。「地獄八景亡者戯」は、あの世に行った、性格が違う個性的な人々を面白おかしく表現する旅ネタで、お客さんはとても喜んでくれはる作品です。表現方法、気の利いたセリフ回し、表情、間合い。その中に自分の人間性が現れてくる。また、気の利いた、奇をてらうようなセリフを入れることによって、オリジナリティが出て、生きた言葉としてお客さんに届くんですな。だから、同じ作品でも噺家によって、味わいもかわるんで、お客さんが「こんなやり方があるんや」「お、こういう風にもってきたか」というような楽しみ方ができる作品なんですよ。

“観る・聞く”よりも“また会いたい噺家”に

 最初に落語を観に来るには、きっかけやと思います。だから最初が肝心。「落語には300年の歴史がありまして〜」っていうような落語の解説から入っていく場合がありますが、そんなんはどうでもいいんです。歴史を語ってもしょうがないわけで、お客さんが楽しみにしてはるのは、この人は、どう私を笑わせてくれるんか、それだけなんですよ。
落語を聞いて、「あ〜オモロかったぁ」「なんでこんなことでくよくよ悩んでたんやろう、もうどうでもええわ」というような気分になって、お客さんの人生が変わることもあると思います。それも1つの出会い。落語は、お客さんあってこその娯楽文化やと思います。「また会いにきますわ!」というお客さんがどれだけいてくれているか、が一番大切ですね。

 「落語は天職」と、曇りのない笑顔で話してくださった桂雀々さん。迷いのない生き方と、前向きなパワーの源は、人との出会いが生み出しているのかもしれません。
 作品をきっかけにした人との出会い、人をきっかけにした作品との出会い。
 落語という深くて広い古典芸能は、時代や環境が変わっても、人間が生きている限り、決してすたれることなく、私たちを元気にしてくれるものだと思います。

今回紙面に載せられなかった雀々さんのインタビューを財団HP上で大公開。続きは下記アドレスから。
URL http://www.torikenmin.jp

桂 雀々(かつら じゃくじゃく)落語家
本名、松本貢一(まつもとこういち)。
昭和35年大阪生まれ。昭和52年上方落語の桂枝雀に入門。同年10月に名古屋・雲竜ホールの枝雀独演会にて「浮世根問」で初舞台を踏む。平成19年には落語家生活30周年を記念した6日間連続独演会「桂雀々十八番」を東京・大阪で開催。テレビやラジオ番組、映画出演など、タレント、俳優としても活躍中。
公式ホームページ:http://www.jak2.net/

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