霜柱の立つ田んぼに陽が射す頃、山々には霧がかかり、まさに妙趣の冬景色。誰しも切り取って額に入れ、毎日眺められたらと願うであろう。このような風景画は山ほどあるが、自然はどの作品とも手触りが違うと固持していた。
しかしある日二科展に足を踏み入れ巨大な絵画を目にした時、私はまるでコンサート会場の扉を開け本物に出会ったような衝撃に、じわりと込み上げてくる感動を覚えた。殊に暗色を基調に、心の機微をちりばめた如く詳細に描き出されたものは、施された彩色が極力抑えられることにより一層の深みを表出し、異彩を放っていた。そして、その精緻な描写に注がれた作者の精神は、作品という表層を突き破り、見る者は差し出されるリアルさに震撼とさせられたものだ。
ところで、個としても人類としても生き辛い時代に遭遇していることは否めない事実だ。そこで私達大人は、今こそ叡智を結集し、社会の安寧を図ることこそ、文化芸術の発展にも寄与できるものと考える。そして、次世代を担う子ども達が、すぐれた芸術鑑賞を継続的に体験・修得する機会をもつことが出来るよう尽力したいものだ。子ども達は、目の前の自然が心に共鳴した時、独自の視点で予断なく描くであろう。子ども達により自然に手が加わり、その成果で文化芸術にも安堵と居場所が見つかる。人が自然にひたる心の余裕を、と切望してやまない。 |