鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年8月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

浦富八景〜かわらぬ情景と時の流れ^

 鳥取県文化振興財団では、郷土の伝統を受け継ぐ子ども達の出演により、伝統の形を地道に伝えている芸能や、新しい郷土芸能の創作を織り交ぜた「鳥取県青少年郷土芸能の祭典」を平成15年度から開催しています。
 今年は、『望郷』をテーマにし、風光明媚な浦富海岸の「浦富八景」をもとに、ジャンルを越えた複合的な作品制作「創作郷土芸能」への挑戦をはかります。時が流れても昔と変わらぬ美しい風景は、私たちの心の中にある“ふるさとの情景”をよみがえらせ、心を惹きつけます。
 今回は、浦富の風景を綴った漢詩と創作郷土芸能についてふれてみたいと思います。

「浦富海岸」

 鳥取県東部には、鳥取砂丘から奥丹後半島までの長さ約75kmに及ぶ海岸線を中心に指定された山陰海岸国立公園があります。この公園を代表する海岸景観の一つが浦富海岸です。浦富海岸は、岩美町大谷から兵庫県との県境・陸上岬までの約15kmの海岸線です。
 その景観は、「山陰の松島」と呼ばれ、白砂青松の砂浜は大変美しく、日本海の荒波による海食や風食によってできた奇岩、洞門、断崖絶壁が点在しています。
 昭和3年に「国の名勝及び天然記念物」に指定され、この指定調査に関わったのが、漢詩人で歴史地誌学者である国府犀東(こくぶさいとう)※です。
※国府犀東…1873年〜1950年
 金沢市生まれの漢詩人・歴史地誌学者。内務省(当時)の天然史跡名勝記念物保存委員

漢詩「浦富八景(浦富海巖勝区八景詠)」

 大正15年に史蹟名勝の調査のために浦富を訪れた国府犀東が、浦富海岸の風光を称えて作った漢詩の連作が、「浦富海巖勝区八景詠」です。
 この漢詩は、序詩を含め、9つの詩で構成されています。
 帰帆(きはん)、晴嵐(せいらん)、夕照(せきしょう)、秋月(しゅうげつ)、晩鐘(ばんしょう)、落雁(らくがん)、暮雪(ぼせつ)、夜雨(やう)という8つの要素で八景が詠われており、14世紀に中国から伝わった瀟湘(しょうしょう)八景の風景画を起源とした風景鑑賞の方法が取り入れられています。
 日本各地の景勝地でも基本的にこの8つの要素によって八景が描かれ、詩歌に詠まれています。

クリックで拡大します。

漢詩「浦富八景(浦富海巖勝区八景詠)」釈文をされている澤田健太郎さんにお話を伺いました。

「浦富八景」の魅力
 浦富には、澄み切った海水の透明感や、奇岩や砂浜の自然の造形美に加えて、菜の花や松の木々の生命美があり、これ等を踏まえて、ふるさと鳥取の景色の良さが詩に現れていると思います。
 漢詩は、物語性や機知に富んだ文芸に仕上がっていて、原文はもとより、訓読文でも十分にその良さを味わうことが出来ます。
 例えば、第ニ番の「龍神洞晴嵐(りゅうじんどうせいらん)」は、岩穴から龍神姫が出てきて、さざなみと戯れている様を歌った詩で、今にも美しい龍神姫が現れてくる錯覚に捉われます。それから、第五番の「菜種嶋晩鐘(なたねじまばんしょう)」では、菜の花の咲く岩の頂の風景を天女が金の髪飾りをつけている姿にたとえています。夕日を浴びて美しく輝いている天女の姿が目に浮かぶようです。
菜種島 龍神洞
創作郷土芸能「浦富八景」への期待
 今回の創作郷土芸能がどのようなものになるか楽しみにしています。漢詩文芸を多くの人にどの様に興味を持って頂けるか、楽音・映像・舞踊など視聴覚を駆使したユニークな舞台を期待したいです。

創作郷土芸能「浦富八景」を演奏と舞、朗唱と映像で表現 構成・演出 田口保行さん(鳥取県文化振興財団)

 平成18年度より、地域の歴史や史蹟名勝を取り上げ、新しい発信と郷土芸能の活性化を目的に、「創作郷土芸能」を制作しています。平成18年度は、鳥取県中部で「新・八犬伝」、19年度は、西部で「尼子再興〜勝田浜合戦〜」を創作しました。今回は、東部で浦富八景と漢詩「浦富海巖勝区八景詠」を題材に、「浦富八景〜かわらぬ情景と時の流れ」を創り上げます。
 作曲は、地元音楽家の邨上美子(むらかみよしこ)さんが手掛け、八景という風景の見方を考えた中国を感じさせる楽器、ニ胡(胡弓)をメインに合奏団を編成し演奏します。演技は、浦富海岸(岩美町)の伝統郷土芸能でもある麒麟獅子・傘踊りを用いて、今回の演目のために地元活動者を中心に創作をお願いしました。そして、国府犀東が詠った八景を、四季で構成し、演奏と舞、朗唱と映像で表現していきます。
 誰しも幼き頃の思い出が、写真のように心の中に「情景」として残っているものですが、その情景は、時が流れてもかわらないもので、ふとした瞬間に、懐かしく鮮明によみがえるものです。鳥取には沢山の郷土芸能があり、継承されていますが、そんな情景もきっと、心の中に存在するはずです。ふと郷土を想う、そんな心をこの作品で感じてもらえればと思います。

参考文献
◎日本海の宝石箱「浦富海岸」 著者:岡垣彰 発行:今井書店鳥取出版企画室
◎やまびこ文庫(20号)編集発行:やまびこ友の会 発行責任者:北村正之
◎名勝浦富海岸のある岩美町からふるさと情報「いわみ倶楽部」 発行:岩美町役場産業観光課

今月の顔

澤田健太郎(鳥取市在住)
全日本漢詩連盟会員
日本吟詠総連盟常任理事
江山吟社代表
 平成17年に漢詩「浦富海巖勝区八景詠」と出会い、私家版の冊子「浦富八景」をまとめる。
写真集「日本海の宝石箱『浦富海岸』」の漢詩解説文を担当。
 現在、鳥取市明徳地区、美穂地区及び神戸地区の各公民館にて、漢詩実作・吟詠サークルの指導をしている。


| 目次にもどる| バックナンバー|

| 県民文化会館ホームページTOP | 鳥取県立倉吉未来中心ホームページTOP | 鳥取県文化振興財団ホームページTOP |