鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年7月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

ドラマチック・エンターテイメントその名も「狂言」
 感動的であり印象的な娯楽―ドラマチック・エンターテインメント―。まさに、この言葉がマッチングする伝統芸能その名も「狂言」。この芸の世界で80年以上舞台を踏んでこられたのが、茂山一門の千之丞氏。物心つくまえからの狂言師。しかし氏は狂言師ではなく自分は『狂言役者である』と言います。戦前・戦後、そして現代を狂言役者として歩んできた茂山千之丞氏に、ご自身のこと、狂言のこと、米子での公演のことを伺いました。

茂山千之丞さんにお聞きしました。

生業(なりわい)は狂言役者
初舞台は、2歳8ヶ月の時です。その時の記憶は全くありません。
かっこよく言うと、気が付いたら狂言をやっていました。現在では、能と歌舞伎の方が一緒に踊ったり、そこへ狂言の役者が入り同じ舞台にあがることもあります。50年前には、想像もつかなかったこと。そういうことを一番初めにやりだしたのが、僕らなのです。その時に僕は、「狂言もやる役者だ」と、狂言師ではなく狂言役者と言っていました。考えてみると、随分「つっぱった」生活をしていました。そういうことを言わないと、皆が注目してくれなかった時代でした。そう、古典の世界は自分たちで壁を作っていたんですね。今のような時代になるには50年かかりました。
戦後の学校での狂言巡演
学校の狂言巡演は戦前からも少しやっていました。特別なイベント・卒業式などに招かれて。戦後は、学校の体育館のステージに出かけていって狂言をみてもらう。『狂言の出前』といっています。新しい原動でした。その時に狂言をみた子どもたちが、今は団塊の世代です。そう、校長先生になっていて、また学校に呼んでくれるわけなのですね。学校の狂言巡演は確かに、狂言を皆に知ってもらうという意味では大変大きな力になったと思います。
狂言に内在する変化していく要素・DNA
狂言に関らず、芝居というのは絶えず変化しています。狂言でも能でも歌舞伎でも、観客のリアクションを受け止めていきます。狂言の中には、変化していく要素・DNAがあるのです。生きたお芝居ですから。僕が若い時分にしていた狂言と、今やっている狂言は随分違うと思います。はっきり言って、ドラマチックです。
お豆腐狂言と新作狂言『豆腐小僧』の出会い
うち(茂山狂言会)の狂言は『お豆腐狂言』と言っています。お豆腐は決して高級な食材ではないですけれど、料理のしようによっては、非常においしく食べられる。こういう誰にでも愛される狂言をやっています。
京極さんとの出会いは、偶然でした。狂言を書かれた第一作が『豆腐小僧』です。『豆腐小僧』というのは、江戸時代『狂歌百物語』や滑けい本でお馴染みとなったのにわずか30年で突然消えてしまった妖怪キャラクターです。そして、狂言界のスター、大名・太郎冠者※1そして次郎冠者※2と平成の現代で出会うのです。ところが、それをお客様は全然違和感なく御覧になる。京極さん自身も違和感なく書かれたに違いないと思います。狂言は、そういう時間・空間を超越した不思議な芝居なのです。
※1.2) 太郎冠者(たろうかじゃ)、次郎冠者(じろうかじゃ)…狂言での登場回数がとても多い代表的な登場人物。いろいろな曲目で、それぞれの太郎冠者・次郎冠者として登場します。
子どもたちにこそ狂言を
最近の学校の先生たちは、狂言をみたことがない方が多いです。小学生のお子さんに、古典の狂言を見せてもわからないのではないか、と思って敬遠されています。しかし、子どもたちというのは、狂言にとっては、非常にいいお客さまです。というのは、狂言というのは舞台装置も使わず、小道具もほとんど使わない。「あるつもりの演技」といっています。たとえば、雨が降ってきたつもり、お酒を飲んだつもり…。子どもはすぐ、つもりなってくれる。イマジネーションが子どもは豊富であり、非常に純粋。狂言と子どもたちは親しみやすいのです。

今月の顔

茂山千之丞(狂言師)
1923年10月14日生まれ。
狂言役者。演出家。
2歳で『似呂波(いろは)』初舞台。23歳で『釣狐(つりぎつね)』を披く※3。
1946年二世千之丞を襲名。
兄の千作とともに、狂言の普及、復曲・新作狂言に務める一方、1948年狂言役者としては初めてラジオ・ドラマに出演。
また1976年より上演の新劇『夕鶴』の与ひょう役では出演500回を超えた。
また、宝塚歌劇やオペラ、スーパー狂言その他の演出も手がけ多彩な芸能活動を展開。
1996年芸術選奨文部大臣賞 など多数受賞。
※3) 披く(ひらく)…狂言師が初めて狂言を勤める時に「披く」という言葉を使います

メッセージ以前に見ていただいた方は、より狂言を好きになっていただきたい。そして、初めて御覧になるかたは、先入観をもたないで、狂言をあまり勉強しないで観てほしい。よく聞かれるのは、「狂言をみて、笑っていいですか?」と聞かれるんです。狂言は喜劇なので、笑ってもらわなければ、どうにもならない。どんどんはしゃいでもらったらいいです。腹の底から笑ってもらいたい。テレビドラマを御覧になったり、ロックを聴きに行かれるのと同じように狂言をみてほしい。その言葉につきます。

三響會去る5月27・28日の2日間、京都南座において『三響會(さんきょうかい)』がひらかれました。『三響會』とは、大鼓・小鼓・太鼓の三つの楽器の亀井・田中三兄弟が囃子を通じて能と狂言、歌舞伎それぞれの伝統を踏まえつつ、新しい可能性を追求する場として平成9年に結成されました。今回南座公演ということで、京都の茂山家がこのたび出演を(千之丞氏は特別出演)されました。同じ演目を歌舞伎そして能で演じる、また能の役者と歌舞伎の役者が同じ舞台にあがるなど、新しい試みが随所に見られました。茂山狂言会の出演は「五人三番三(ごにんさんばそう)」。通常一人で踊る「三番三(さんばそう)」に、古格を保ちつつ新たな構成を施し、茂山一門の花形五人組(正邦、茂、宗彦、逸平、童司)が勤めました。千之丞氏は「舞台番」として登場。歌舞伎でいうところの口上のようなもの。千之丞氏の開口一番は「レディース エンド ジェントルマン!」。会場は一気に盛り上がり「せんのじょう!」と歌舞伎さながらの掛け声が。伝統芸能とエンターテイメントのコラボレーションでした。 
※4)「三番三(三番叟)」…天下泰平・五穀豊穣、国家安穏を祈る「翁(おきな)」という能楽の後半部分で狂言方が勤める舞。大蔵流に限り「叟」を「三」 と書く。


ここをチェック

これを聴いてみよう!『ハイパー室町歌謡組曲 BASARASARA』

茂山千之丞氏がプロデュースを手がけたこのCDでは中世当時の流行り歌が随所に出てきます。まるで今日のテレビドラマの中で、たとえばカラオケの場面で現代歌謡が歌われるのと同じように…。 千之丞氏曰く「焼酎のお湯割りに梅干など入れたのを召し上がりながら、出来るだけ無責任に聞いていただけたら、まことにかたじけのうござりまする」と。室町時代へ是非タイムスリップしてみてください。 

これを観てみよう!『京都狂言・茂山千五郎家  唐相撲』出演:茂山千五郎家

総勢40名の唐人が、縦横無尽に舞台の上で繰り広げる「狂言相撲」。帝王の気品と軽妙な『楽舞(がくぶ)』。絢爛豪華な「唐人衣装(とうじんいしょう)」と「唐(とう)」の道具。そして、帝王や通辞の話すデタラメな中国の歌。「唐音(とういん)」が抱腹絶倒の笑いを誘います。

 

これを読んでみよう!著書、原作本など著書、原作本など

『狂言役者−ひねくれ半代記』
 茂山千之丞著 岩波新書
『狂言じゃ、狂言じゃ』
 茂山千之丞著 文春文庫
『京都の狂言師 茂山家の人びと』
 小佐田定雄著 淡交社
『京極噺六儀集』京極夏彦著 ぴあ

☆HPアドレス……お豆腐狂言 茂山千五郎家 http://www.soja.gr.jp/

妖怪狂言妖怪狂言
〜茂山一門の世界〜
人間国宝 茂山千作満を持しての米子初公演!!
茂山狂言会、3年ぶりに米子到来。夏にぴったりの“妖怪”をテーマにした狂言がくりひろげられます。人間国宝 兄・茂山千作の妙技。豆腐小僧がはまり役の弟・千之丞。ぜひご覧あれ・・・。
演目
◆狂言解説
◆狐狗狸噺(こくりばなし)
◆魚説経(うおぜっきょう)
《出家:茂山千作(人間国宝)  檀家:茂山七五三》
◆豆腐小僧(とうふこぞう)
※曲目・出演者は都合により、当日変更される場合がございます。予めご了承ください。
2008年8月17日(日)開場:13:30 開演:14:00 終演予定16:00
会場:米子市公会堂
チケット:
指定席(reserved)〈1F〉:5,000円(4,500円)
自由席(unreserved)〈2F.3F〉
●一 般3,500円(3,000円)
●foreigner(外国籍の方)1,000円
●中・高・大学生1,000円
●小学生500円
※(  )内は、財団友の会・団体10名以上料金
【西部】米子市文化ホール、米子市公会堂、ビッグシップ、米子高島屋、本の学校
【東部】とりぎん文化会館(鳥取県民文化会館)
【中部】倉吉未来中心
【県外】しまね文化情報コーナー
プレイガイド
共同主催:財団法人米子市教育文化事業団
助成:ごうぎん鳥取文化振興財団
お問合せ先:とりぎん文化会館(0857)21-8700


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