鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2007年7月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

ギター演奏の受容史

 ギターの前身であるリュートという楽器に関して言えば、ヨーロッパではすでに16〜17世紀には主要楽器としての位置を占めていました。バッハやヴィヴァルディにはリュートのための組曲や協奏曲が数多くあります。ところがフランスで大流行したクラヴサン(チェンバロ)の隆盛と、イタリアにおける弦楽器の飛躍的な普及と構造の進歩によって、リュートは表舞台からは姿を消していきました。19世紀初頭に、ジュリアーニやカルッリらがギター協奏曲を手掛けましたが、その音量の乏しさから、オーケストラには不向きな民衆楽器と考える音楽家がほとんどでした。20世紀になって、スペインのアンドレス・セゴビア(1893−1987)の出現によって、ナイロン弦の使用や木材の変更といったギターの構造面のみならず、爪を使った奏法など音響効果での顕著な改良が施され、ギター再評価の礎を築いたのでした。後に現代クラシックギターの父とまで言われたセゴビアは、ロドリーゴやテデスコといった20世紀のギター協奏曲の大家たちに影響を与えたのでした。

Interview 松本正嗣
日本のエレキギター受容史とともに歩んでこられた鳥取市在住のプロギタリスト、
松本正嗣さんにお話をうかがいました。


ギターとの出会い、のめり込んだきっかけ

 高校一年の頃、まだテレビが白黒の時代でした。ある日、海外ドラマでエレキギターを初めて見て衝撃を受けたのがきっかけです。その頃の鳥取にはカタログすらなく、楽器店でもクラシックの教則本がある程度だったので、楽器店に「電気つかうギターないですか?」と尋ね歩いても「そんなものはありません」って追い返される日々でした。初めて見たときは“ドーン”と頭から爪先まで戦慄が走りましたよ。


ギタリスト武者修行

 大学で東京に出た時がエレキブームでした。僕は高校の頃からエレキをやっていたので、大学2年でセミプロのバンドに誘われて、そこでバイト代をもらって楽器を買うようになってから「この道で食べていこう」と決めましたね。渡辺貞夫さんの「ジャズスタンダード」っていう有名な教則本があるんだけど、その元は、実は僕と楽器メーカーの担当とで作ったんです。僕らで作った記号がそのまま今も使われているものだってあります。ギター演奏のテクニックでチョーキング※1ってあるでしょう。あの記号は僕が考えたんです。トラ(エキストラ)はもちろん、渡辺香津美と新型ギターのモニターをやったことだってあります。それからドリフのひげダンスが流行ったでしょう。あのテーマの一番最初にテレビで使った音源は実は僕の演奏なんです。

伸び悩んでいる若者たちへのメッセージ
(概念から入るな!まずは音楽との対峙から)


 若い人のバンドでたまに見受けられるのが、イメージ先行型のタイプかな。音楽を聴いていなくて、見ているんですね。ポジショニングとかカッティングの身のこなしとかばかり気にして、自分で音を創ることをしていない人達が多いですね。もちろんあらゆる芸術は模倣から始まるのだけども、DVDやらネットの普及で、プロの演奏が巷に溢れかえっているから仕方がないのかな?
 例えばギターで言うと、タブ譜※2だけで理解しちゃうのは駄目ですね。これだとカラオケと一緒でしょ。そうじゃなくて、オリジナルの楽譜を広げ、オタマジャクシを目で追って、そこから自分で音を創っていく。すると、自分はこの楽器で「どういう音楽をするのか?」「何でこの音楽なのか?」と真剣に楽曲と対峙するようになるんですよ。僕が東京でギターの指導者をしていた頃は、レッスンの大半は写譜で潰れてました。でも、結局それが楽曲を理解するのに驚くほど役に立っていたと思うんです。
 それから、音楽を音“学”と置き換えてもいいと思いますけど、自分の楽器がどういう構造をしていて、どうやって鳴っているのか一度真剣に考えてみる必要があります。僕はね、ギブソンのL−5っていう、結構値の張るギターなんですけど、新品買ってきた夜に、ペグのビス一本まで全部外してバラバラにしてみましたよ。それは、この楽器で自分がプロとしてやっていく覚悟だったと思いますよ。それと音の背景っていうかな、音楽全体を眺め見ようと貪欲であってほしいね。簡単に手許に入る音源で納得せず自分で探求して欲しい。自分で探す辛さ、それが見つかった時の喜びと、それをモノにした時の優越感。それが人を成長させていくんだと思いますよ。

若き日の天才ギタリスト、渡辺香津美との出会い

 まだ渡辺が高校生の時ですよ。彼自身はもう天才ギタリストとしてデビューしていたけど、ライヴ活動はまだ少なかったんですよ。「松本さん何か仕事ないっスか?」なんて感じでふらっとやって来たんで、それでトラを紹介したんですよ。ところが演奏終わってバンドの担当に感想を聞いたら、「確かにすごく上手いんだけど、もう勘弁してください。」って。困惑ぎみだったので理由を聞くと、コードしか渡してないのに自分で勝手にソロ弾いちゃっていたらしく、他の演奏家を喰っちゃったんですよ。彼も最近では、テレビのギター講座やったりして、ずいぶんと昔に比べて話が上手になったなぁって思いますよ。ギターは超一流なのに、しゃべりは苦手っていう印象しかなかったからね。(笑)渡辺は8月に倉吉に来るんですよね。久しぶりに会って話をしたいな。




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